研究

今月の特集

Nuclear dynamics

nucleus





生命機能科学研究室の研究


2021.April

Enzyme-linked Photo-assayについて


思考と活動を支える脳は、多種多数の細胞が情報を相互に交換して機能している。私たちは酵素を利用して脳の出す情報分子を光学的に観察する技術を開発し、情報の時間的空間的な相互作用を観測しています。 この技術を用いて、発達期の脳が神経伝達物質を出して互いに連絡しながら神経回路を作る過程を可視化することができます。また、酵素光反応を用いた測定技術を、他の生理活性分子の測定に応用することで、臨床化学から食品化学まで幅広く技術を応用することができます。

■酵素光学法による伝達物質可視化デバイス

伝達物質GABAやグルタミン酸の放出分布と時間変化を可視化するために新規光学デバイスを開発した。本デバイスは、①酸化還元酵素を用いた伝達物質放出の蛍光観察、②UV-LED光源を用い、ガラス導波路表面からの励起によって自家蛍光と組織障害を軽減、③シラン化剤による酵素のガラス表面固定化、を特徴とする5]。薄切した小脳組織は十分な酸素供給の後ガラス基板上に載せ、組織と基板の界面に放出されたGABAおよびグルタミン酸は、GABA分解酵素およびグルタミン酸脱水素酵素の酵素反応により化学量論的に還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(リン酸)(NAD(P)H)を生成する。これを360nmで励起し480nmの蛍光を発生させ,放出分子の分布を観察する。基質選択性の高い酵素反応を用いるため、放出される伝達物質に特異的に反応して蛍光を発する(特徴①)。一方NAD(P)Hは細胞内に普遍的に存在する分子であるため、励起光により細胞内から自家蛍光が発生する。そこで励起光源にガラス導波路を用い、表面からごく浅い範囲に励起光を照射することとした(特徴②)。さらにシラン化剤により酵素をガラス表面に固定化する(特徴③)ことで、簡易なバイオデバイスを構成した。

■GABA放出の測定

発生過程の小脳皮質からのGABA放出を観察したところ,出生直後の外顆粒層からのGABA放出が観察された。この層にはGABA作動性神経細胞が殆ど分布しておらず、非神経性のGABA放出であることが示唆された。外顆粒層からのGABA放出は生後1週間程度続き、バスケット細胞・星状細胞が分布して神経性のGABA放出が始まると消失することが観察された。さらに小脳皮質から単離培養アストロサイトを観察したところ、培養初期の細胞からGABA放出が観察された。これらはGABA合成酵素(GAD)を発現しており、発達期の小脳アストロサイトは神経細胞非存在でGABAを合成し放出していることが示唆された。

■ATP放出の測定

ATP要求性の酸化還元酵素反応であるグリセルアルデヒド 3-リン酸脱水素酵素(GADPH)を用い、100uMのグルタミン酸刺激によって放出されるATPを、酵素反応で化学量論的に発生するNADHによって可視化することを試みた。

生後8日の小脳組織ではほとんどATP放出が見られないが、生後10日の小脳では急激なATP放出の増加が見られた。ATP放出はグルタミン酸刺激から約50sec後にゆっくりと上昇し、従来のL-L反応の結果と一致していた。各種のグルタミン酸受容体アナログで刺激したところ、刺激される受容体サブタイプによってATP放出部位が異なることが見られ,アストロサイトが直接グルタミン酸刺激を受けるだけでなく、神経細胞の刺激を増幅・制御してATPを放出していることが示唆された。

Reference:
Optical measurement of glutamate in slice preparations of the mouse retina
M. Ohkuma, M. Kaneda, S. Yoshida, A. Fukuda, E. Miyachi Neuroscience Research 2018 Mar 6. pii: S0168-0102(17)30544-8. doi: 10.1016/j.neures.2018.03.001.

Visualization of Spatially Distributed Bioactive Molecules Using Enzyme-Linked Photo Assay
H. Mabuchi, HY Ong,K. Watanabe, S. Yoshida, N. Hozumi IEEJ Transactions on Fundamentals and Materials Vol. 136 (2016) No. 2 P 99-104

Improvements in Enzyme-Linked Photoassay Systems for Spatiotemporal Observation of Neurotransmitter Release
K. Watanabe, N. Takahashi, N. Hozumi, S. Yoshida Sensors and Materials, Vol. 27, No. 10 (2015) 1035–1044

発達期小脳アストロサイトの機能と秩序形成
吉 田 祥 子,穂 積 直 裕 日本神経回路学会誌 神経伝達物質を視るデバイスが拓く神経科学の展開 ~ 求められる技術を開発する技術 ~
吉田祥子・穂積直裕 信学技報, vol. 112, no. 345, NC2012-81, pp. 39-40, 2012年12月.